【マガジンvol.5】 rhapsody in medina マラケシュ旧市街ラプソディー

マラケシュ_メディナ心地良い喧騒が身体を熱くさせる。
モロッコ、マラケシュのメディナ(旧市街)は日々大勢の人を吸い込み、吐き出していく。
旅人の好奇と商人の欲望が交錯し、質素な暮らしに実際的な希望が寄り添う。
大きなうねりで訪れた者をトランスに誘う、旧市街ラプソディー。
スポンサーリンク

rhapsody in medina マラケシュ旧市街ラプソディー

マラケシュ最大の魅力は、ジャマエルフナ広場を起点とする、城壁に囲まれた旧市街だろう。
朝は閑散としているフナ広場は午後になると徐々に屋台が増え、夜は熱気に包まれる。
rsIMGP2337マラケシュ_ホテルアフリカ
2014年2月の卒業旅行、ポルトガルで1週間過ごした後、バスとフェリーでモロッコのタンジェに入り、フェズ、メルズーガ(サハラ砂漠)と周ってマラケシュに着いた。マラケシュで二か所泊まったうちのひとつがHotelAfriquia(ホテルアフリカ)。
ここは気持ちのいいテラスがあってフナ広場からも近い。
スタッフのアブドゥラティフとはかなり仲良くなった。

ビサラ

朝起きて部屋を出るのは9時〜10時頃。
朝シャワーを浴びる日は着替えを持って共有シャワーに向かう。
そうでなければ朝食のために、寝巻き姿(旅行に寝巻きは持っていかないので、昼夜兼用のスウェットパンツにTシャツ、ジャンパー。)でフナ広場を横切る。

朝行く店は決まっている。フナ広場に面したアーケードの入口右脇に連なる、いくつかの安食堂が集まる一角にあるビサラ屋。

ビサラビサラはそら豆をすりつぶして煮込む、ピューレのようなスープのようなもので、クミン、塩、チリパウダー、オリーブオイルなどで調味する。
これをホブス(モロッコでポピュラーな円盤型のパン)ですくって食べる。
そら豆の優しい甘さとスパイスの香りがじわじわと身体を温めてくれる。

初めて食べたときに気に入って、朝に食べるものだと聞いて(実際のところは分からない)毎朝食べた。

***

ホテルアフリカに戻って着替えて歯を磨いて外に出る支度をする。
持ち物はほとんどない。小銭とクレジットカードとパスポート。それにカメラと携帯電話だけだ。
全部モッズコートのポケットに突っ込む。
ついでに手も突っ込んで、近所の公園に行く。

スパイスコーヒー

スパイスコーヒー

滞在中、毎日飲んだスパイスコーヒー。
ジンジャーやシナモンなど数種類のスパイスが入っている。初めて飲んだときの、身体が熱くなるような衝撃が忘れられない。
おじいちゃんが、公園の端で大きなやかんとコップ3つだけでやっていて、コップは洗わずバケツの水に通すだけで次の人に回る。
一杯1ディルハム(当時約12円)のコーヒー。

コーヒー

コーヒーじいちゃんは、陽気でよくしゃべる他のモロッコ人とは違って寡黙だった。
外人の僕が毎日通ってもオーバーなリアクションはせず、ただ黙ってコーヒーを注いでくれた。
やかんで煮出す作り置きのコーヒーなのに、びっくりするくらい美味い。
飲み終わった後も長い間座って時間を潰す。黙って座っている。

偶然辿り着いたマラケシュで、何にも縛られることなく過ごす時間。日々は過ぎて行き、いずれは帰国する。
卒業旅行であるこの旅が終われば、卒業式があって、学生生活が終わる。
センチメンタルになる。センチメンタルにさせる、一杯12円の贅沢なコーヒー。
センチメンタル・ジャーニー。

スパイスコーヒー

マラケシュ最後の朝には、毎日一緒だった常連のじいさんが「もういっぱい飲んでけ」と奢ってくれた。

rsIMGP2618このコーヒーをあまりに気に入ったので作り方を聞きたかったけど、コーヒーじいちゃんは英語が喋れなかった。

隣にいた黒人の兄ちゃんに通訳をしてもらったら、ただのネスカフェ(?)に自分でスパイスを加えているということだった。
黒人の兄ちゃんはセネガルから絵を売りに出てきているらしい。

「この絵は売れる?」
「売れないよ。」
センチメンタルだ。

安食堂の豆の煮込み

昼食はアーケードのスーク(市場、商店街)を抜けて、さらにしばらく進んだところにいくつかある安食堂のどこかで食べる。
大体いつも同じようなものだ。

rsIMGP2585rsIMGP2529

豆の煮込みか肉と豆の煮込みとホブスで5dh〜7dh程度。
モロッコに来て豆の煮込みが好きになった。

rsIMGP2583このじいちゃんの店にはマラケシュの最後の昼にたまたま立ち寄った。
肉団子のトマト煮が美味かった。
おかわりもタダでさせてくれてずっと笑顔で優しいじいちゃんだった。
マラケシュ今日で最後なんだ、と言ったのに
「明日も来いよ」
と言ってくれた。

***

rsIMGP2510rsIMGP2485

毎日、安食堂群の近くのヨーグルトスタンドに人だかりができている。
飲むヨーグルト、食べるヨーグルトの両方があって、味もサイズも何種類かある。
ここにも毎日通った。

ヨーグルト
▲ヨーグルト3dh(当時約36円)

午後の散策

rsIMGP2268

昼過ぎはメディナを散策して過ごす。
いろんなマーケットに行っていろんなものを見た。

rsIMGP2504

rsIMGP2508

野菜・肉・魚など食品が多く扱われているローカルマーケット。元気な野菜がごろごろ転がっていて気持ち良い。
ほとんどが地元の人で、英語は通じなかった。
量り売りのスパイスは新聞紙などの紙に包んでくれる。
間違ってもここで買った包装のまま日本に持って帰ることはできない。

rsIMGP2603

青空ガラクタ市場。
古着、靴、やかん、新品からゴミみたいなものまで売っている。

rsIMGP2601rsIMGP2602

このガラクタ市場で、3dhでミントティー用のやかんを買った。

rsIMGP2597

路上でオレンジを売る屋台。
「配達に行くからちょっと店番してて!」と言われてしばらく店番をした。
客が来ても値段分からないな。
とりあえずオレンジを食べながら10分くらい店番をした。

誰も買ってくれなかった。

メディナ北東のタンネリ地区

一度、メディナの北東にあるタンネリ(革なめし工房)にも行った。
いつものようにふらふら歩いていたら、すれ違った人から急に「革なめしの見学に行かないか?」と声をかけられた。
暇だったし、歩いて行ける場所だというのでついていった。

すると案内してくれた男は途中で、通行人に話しかけて
「悪いけど、コイツをあそこまで連れてってやってくれないか?」という風に引き継いだ。
声をかけられて誘われたはずが、こっちが道に迷ってるみたいな流れになって謎だった。
男はタンネリガイドかと思っていたけど違うみたいだった。
たぶん、親切で面白そうな場所を教えてくれただけだったのだ。親切だ。
でも途中で面倒になって、他人に任せることにしたようだ。

引き継がれたのは中年男性で、仕方なさそうに引き継がれてくれた。親切だ。
そしてその後もう一度別の男性に引き継がれて、もうどこだかわからない所まで奥に進んでようやく到着した。
人もまばらな地域だった。意味が分からないけどみんな親切だ。

rsIMGP2477

入り口の近くにいた人が中に招き入れてくれた。
革の臭いがきついのでミントを一掴み渡された。これで紛らわしながら見学するらしい。
一応、白人の老夫婦が一組だけ、ガイドを付けて見学していた。
そういえばタンネリ見学で、勝手にガイドに案内されてチップを払わされた上に、併設のお土産屋で高額な革製品を買わされた。というのはよく聞く話だ。
何か買うまで帰れない。

正直金はなかったし、入場料があれば払ったけどただ不当にお金を払うことはしたくなかったので、ガイドは断って早足で見学した。

rsIMGP2476

見学後はもちろんお土産屋に連れていかれた。
ありがとうと言って帰ろうとすると、予想通り何か買えと言ってきた。
確かにいくつか魅力的な商品もあったから、入場料代わりに何か買って帰ってもよかった。
ただ、全部高かった。そしてほとんど金を持ってなかった。

10分くらい物色してからもう一度帰ろうとした。
でもまだ帰してもらえなかった。
仕方ないので、このあと用事があるんだと言って無理やり押し切った。
ちゃんと見学料として金を取ってくれるといいんだけど。

rsIMGP2479

サンセット

マラケシュ_夕日

rsIMGP2487だいたい15時くらいになったら、メディナのクッキー屋で一口クッキーを買って宿に帰る。

買ったばかりのクッキーをつまみながら、カルフールで買い溜めたビールを飲みながら、日本から持ってきた本を読んだりアブドゥラティフと喋ったりしているうちに日が沈む。

***

rsIMGP2281

サンセットは信じられないくらいきれいだ。
マラケシュの空が特別きれいなわけではなく、センチメンタルな感情が身体を覆いつくしているからだ。
モスクから広がる夕刻の祈りの声がそれを助長する。

アブドゥラティフは毎日かなり長い時間、話し相手になってくれた。
お互い片言の英語だけど内容はちゃんとあった。

アブドゥラティフとの会話で、イスラム教徒の人名について教えてもらったこと。(英語が怪しいので正確ではないかも)

イスラム教徒の人名は、
アッラーの99の呼び方(アッラーの99の美名)+スレイブネーム(~の下僕)
というパターンが多いらしい。

よく聞く「アッラフマーン」とか「アッラシード」もアッラーの99の美名の一つだ。
だから似た名前が多いのだそうだ。

夜のフナ広場

rsIMGP2287

夕方から深夜まで、フナ広場は人で溢れる。
屋台にはナンバープレートがついていて、旅行者や現地在住者の間では「○○番の魚のタジンが美味い」とか評判が立つ。

マラケシュ_屋台タジン

調子のいいキャッチの兄ちゃんたちが次々声をかけてくる。
煙が立ちこめる。

毎夜賑わいを見せるフナ広場の光景は、もはや幻想的とさえ思える。
喧騒の中をあてもなく歩き回っていると、視界がぼやけて体がふわっとする瞬間がある。

フナ広場

眼鏡やコンタクトを使っている人には分かる、裸眼の感覚。

グナワ音楽

グナワミュージック_フナ広場

夜のフナ広場での大道芸の一つに、グナワ音楽の演奏がある。
グナワ音楽はモロッコなどの西アフリカ諸国に伝わる民族音楽。
7,8人のグループで楽器を演奏しながら歌を歌っていると、だんだん聴衆の輪が大きくなって盛り上がる。

グナワミュージック_フナ広場
演奏が終わると金を集める。
広場のいたるところでそれぞれのグループがやっている。

あるとき、演奏を眺めていると近くにいたモロッコ人に「日本人?」と話しかけられた。
前に日本に住んでいたことがあるらしい。
こいつはハリドという奴で、20代後半くらいの背の高い男。

ハリドが誘ってくれて、グナワミュージックの演奏の仲間に入れてもらったことがある。
盛り上がって楽しかった。

***

昼のスークで、ハリドの知り合いの店の前で座ってしゃべっていたとき、日本人の女の子二人組が通りかかった。
感じの良くない二人組だったけどハリドはナンパを始めた。日本語をすこし喋れるので日本人にすぐ話しかける。
結局、「ガイドするから昼ご飯をおごって」
と言って女の子たちについて行った。

マラケシュでは偽ガイドが横行しているため、警察による取り締まりが厳しく行われている。
モロッコ人と外国人が一緒に歩いているだけで注意を受けるという話も聞いた。
そのためハリドのような胡散臭い奴は、警察が来たら”ガイド”じゃなくて”トモダチ”だと言うように言って、カモに食事をおごってもらう。

そういえば話しているとすぐ、「日本に帰ったらファンタグレープを送ってくれ」と言う奴だった。
モロッコではファンタグレープが売ってないとかで、
「I miss fanta…」
が口癖だった。

rsIMGP2276-1
瑞々しい活気に満ち溢れたメディナはすごく魅力的だ。
マラケシュのメディナはすべてを包み込むほど大きくて、奥深い。
その隅々まで見て回るのは難しい。
それでも、回数や期間にかかわらず、訪れる者は皆その奥深さに包み込まれてうっとりするはずだ。今宵もきっと、鳴り止むことのないラプソディー。


2014.2.6~3.6 ポルトガル、モロッコ、イスタンブール