2014.2.6~3.6 ポルトガル、モロッコ、イスタンブールを旅行したときのマラケシュの記事です。
さよならマラケシュ
この旅の最終地点、イスタンブールに行く日が近づいていた。
イスタンブールから東京に帰る日は決まっている(エミレーツで東京ーリスボン、イスタンブールー東京の往復チケットを買っている)から、そろそろイスタンブールに行く日も決めなきゃなと思ってチケットを探していると、モロッコのカサブランカからトルコのイスタンブールまで、AirArabia(エアアラビア)というLCCで15000円のチケットが見つかった。
モロッコに来てから、モロッコとトルコはそんなに近くはないしチケットが高くて買えなかったらどうしようと思っていたけど、これで無事に東京までのルートが決まった。
決まってしまった。
チケットが買えなかったとかなにかしらで帰れなくなればいいなという密かな希望は消え去った。
帰国したら卒業式で学生生活が終わりとはなんとも切ない。
まあとにかくイスタンブールに行く日が決まったので、モロッコは残り数日となった。
マラケシュから首都ラバトに行き、前にマラケシュで会ったちひろさんと合流して観光して、一泊してカサブランカに行くことにした。
マラケシュからラバトには鉄道で行く予定だから、最終電車に乗ってラバトの駅で一泊すれば宿代が浮く。
マラケシュの鉄道駅までは宿から歩いて30分くらい。
タクシーで行くとすぐ着くけど、急いでいるわけではなかったので歩いて行こうと思っていたら、宿のスタッフのムサが「バスがいいよ」と教えてくれた。
バスはフナ広場の近くから出ているらしい。
マラケシュを出る日の夕方、ムサと夕飯を食べに行った。
いつものフナ広場ではなく、薄暗い路地裏の食堂に連れて行ってくれた。
魚のフライをトマトベースのソースにつけて食べる。
夕飯後は終電の時間まで宿のフロントで喋ったりして過ごした。
バス停まではムサが送ってくれた。
「このバスだよ。」と教えてもらい乗り込もうと思っていたら、バスが思いのほか混んでいた。
こんな遅い時間にみんなどこに行くのだろうか。
よくある”バーゲン状態”の混雑度で、前後左右から人がぶつかって来て、バスには乗れそうになかった。
お尻を叩かれたような気もした。
今から歩いて行くと電車に間に合わなさそうだ。
そうこうしていると、ムサがタクシーを見つけてきて、「駅までこいつを乗せてくれ」と交渉してそのへんにいたおっさんとおばさんと相乗りにして車内にねじ込んでくれた。
タクシーはすぐに駅に着いた。
ポケットの小銭で料金を払い、バックパックを取り出して駅の切符売り場に行った。
「ラバトまで」と言ってお金を払おうとした時に気づいた。
パスケースがない。
パスケースにはクレジットカードが1枚と、(なぜか)日本の学生証と現金3000円相当が入っている。
一応財布は別で持っていて、こっちにはクレジットカード1枚と現金1000円と数ユーロが入っている。
と、冷静に考えている場合じゃない。いや場合じゃないってわけでもないような。
帰国まであと1週間くらいあるのに現金4000円ちょっとしか持ってなかった時点でアウトなはず。
まあそれは置いといて、そもそもパスケースがなくなったのはおかしい。
さっきバス乗り場で盗られた?というのが唯一思い当たるフシだったけど、パスケースはジーンズの右後ろのポケットに入れていたはずで、その上からモッズコートを着てバックパックを背負っている。
完全防御とは言えないけど触れられたら絶対気づくはず・・・
でもあの時は異常な混雑度で不審にぶつかられても気づかなかったかも・・
とりあえず戻るか。
と思って、タクシーで来た道を歩いて戻った。
30分後、宿に引き返してきてひょっこり顔を出した僕を見て、スタッフのムサとアブドゥラティフはびっくりして、
「どうした?」、「何かあったの?」
と口々に心配してくれた。
フロントは夜中まで開いているので、隣で朝まで寝かせてもらおうと思って、事情を説明した。
ちょうどフロントに出てきていた日本人宿泊客のたか子さんも親身に話を聞いてくれて、「スカイプの国際通話プランを契約しているから」と言って電話を貸してくれて、クレジットカード会社に電話をかけることができた。
たか子さんは本当に親切にしてくれて、その後お金も貸してくれた。
宿で2,3回会話しただけでそこまで親しくなっていないのに、簡単にお金まで貸してくれて、感謝してもし切れない。
帰国後にお金は返したけど、たか子さんは北海道在住なので直接会ってお礼をすることができなかったのがすごく申し訳ない。
その間に、ムサは部屋を用意してくれた。
僕は部屋を借りるのは申し訳ないので、敷地内の野外に朝まで居させてほしいと言ったが、ムサは「よく寝たほうがいい」と言って無料で部屋を使わせてくれた。
部屋に荷物を置いた後は盗難届を出すため警察署に行った。
このとき、ムサは一緒について来てくれた。
ムサはバス停で一緒にいたのでかなり責任を感じているようだった。
でもパスケースがなくなったのは当然ムサのせいではなく、完全に自分の不注意だ。
繁華街だけあって真夜中の警察署は大混雑で、待っても待っても順番が来なかった。
両腕を抑えられながら今まさに連行されてきた男と警官が大声で罵り合いながら部屋に入っていくのを見ていたら、突然、警官が男を小突いた。
軽くではあったけど、先に警官が市民に手をあげるなんてちょっと衝撃的だった。
男は酒に酔って何かをしたらしい。
その後しばらく待っても順番が来なかった。
ムサが暇そうにしている警官に「こいつは盗難に遭ったんだ」と説明しても、「ハッ、そうか。待っててくれ。」(って感じに見えた)と言うだけだった。
結局待ちくたびれて、諦めて宿に戻るとムサは自分の夜食用のお菓子を出してくれた。
アブドゥラティフも心配してくれて、「何か食べに行かない?」と誘ってくれた。
フナ広場の近くにある、欧米人観光客で賑わうピザやハンバーガーを出す店に行った。
こういう店は観光客向けで、値段も周りの店より高い。
フナ広場の屋台と比べると2倍以上する。
それでもアブドがこの店を選んだのは、きっと特別なものを奢ってあげようと思ってくれたからだと思う。
この優しさが本当に嬉しかった。
テラス席でピザを食べていると、小さな子どもがティッシュを売りに来た。
アブドはティッシュを買い、ピザを一切れ分けてあげた。
するとどこからともなく物売りの子どもが集まってきて、アブドはピザを半分くらい子どもたちにあげた。
僕も同じことをした。
このピザは、今回の旅の中で僕が自分で支払ったどの食事代よりも高かった。
それはアブドの収入を考えても簡単なことじゃないはずだった。
改めて、マラケシュで温かい人たちと会えて良かったと思った。
みんなが親切に助けてくれるから、楽しく旅ができるんだと再確認した。
宿に帰ってアブドとムサにお礼を言って、部屋に戻った。
明日の朝はラバトの駅で約束があるので、一番早い電車に乗る。
翌朝、フロントで寝ているムサを起こして最後の別れの挨拶をして、駅に向かって歩いた。
Comments